皆さんは、
便の正体をご存知でしょうか?
まずは水分ですが、
その水分の割合は人それぞれで、
体調によっても変わって来ます。
便秘の人は水分が少なく、
下痢の人は当然、
水分量は多くなります。
水分以外の部分は、
その半分ほどが腸内細菌で、
残りの半分が食物繊維を初めとする
消化されなかった食べ物です。
今、私たちが目にしている
便のかなりの部分は、
腸内細菌なのです。
その腸内細菌の
およそ3分の2が死骸で、
残りはまだ生きている状態で
あることも分かって来ました。
便には、
生活習慣の情報や、
消化器系を初め内臓のコンディション、
感染症の発症の兆し、
将来、罹患する恐れのある病気など、
情報がたっぷりと詰まっています。
実は、
体の健康状態や病気のリスクは、
便を調べれば分かるのです。
腸内フローラの研究は
2004年頃から急速に進みました。
それは、
世界的に行われていた
「ヒトゲノム計画」という、
人間の持つヒト染色体の遺伝子情報を
全て解読して、どこに何が記されているかを
明らかにしようという世界的な
ビッグプロジェクトがあり、
1991年より、
日本アメリカ、イギリス、フランス、
ドイツ、中国の6カ国20研究センターの協力で
ヒトゲノム解読が進められ、
2003年に解読完了が宣言されてから、
プロジェクトに参加していた
一部の研究者らが、次の研究分野として
腸内フローラの遺伝子に着目したからです。
そこから、
今の腸内細菌の研究では、
技術的にも手法的にも、
従来の腸内フローラ研究とは違う
最先端のテクノロジーを用いたアプローチで、
微生物を調べられるようになりました。
そして2006年頃から、
その研究成果が現れて来たのです。
ヒトゲノム解析に使われていた
『DNAシーケンサー』をさらに改良して
『次世代シーケンサー』と呼ばれる
最先端分析装置が、
腸内フローラを研究するフィールドで
使われ始めました。
この装置を使って、
便から採取した腸内フローラ遺伝子を
網羅的に調べることによって
(これをメタゲノム解析と言います)
腸内にどんな細菌がいるかを
詳しく調べられるようになりました。
それともう一つ、
メタボローム解析技術の本格化が、
腸内細菌の研究に拍車をかけました。
メタボローム解析とは、
『核磁気共鳴装置』や
『質量分析計』を用いることで、
血液一滴や数mgのサンプルから、
アミノ酸や有機酸などを含む、
数百個の代謝物質の濃度情報を
一度に算出できる最先端テクノロジーです。
このメタボローム解析で、
便を分析することで、
腸内フローラの代謝物を
網羅的に調べられるようになったのです。
次世代シーケンサーを用いた
メタゲノム解析によって、
腸内フローラの遺伝子を
網羅的に調べることで、
どのような腸内細菌が
お腹の中にいるのかを知ることができ、
さらにメタボローム解析で、
腸内フローラの代謝物質を調べることで、
はじめて腸内フローラの本当の機能、
どの腸内細菌が何を作り出しているかが
分かるようになったのです。
腸内にどんな細菌がいて、
どのようにふるまい、
どのような物質を作るのかを
知ることができれば、
その結果を元に、
ひとりひとりがどんな病気を警戒し、
病気を発症させないために必要な
食生活や生活習慣を、より具体的に
提案できるのです。
これまでお話ししてきた野菜ですが
朝摘み野菜をメタボローム解析で
検証することで、朝の野菜は
日を浴びて光合成することで、
光を利用して代謝を始め、
糖質やアミノ酸と呼ばれる、
ヒトが美味しいと感じる栄養素が
溜まっている状態になることも
分かるようになりました。
ですから野菜は、
朝の光合成をすることがとても必要で、
生きているうちに召し上がることが
最も良いということも
最先端の技術で証明されたんですね。
こうして、
これまで人類の知恵や経験で、
良いと分かっていたことが、
科学的にも実証され始めています。
2011年に
国立研究開発法人理化学研究所では、
メタゲノム解析および
メタボローム解析を用いて、
ビフィズス菌による
腸管出血性大腸炎O157感染予防の
分子機構を世界に先駆けて明らかにし、
世界的にも権威ある学術誌
『ネイチャー』で発表しました。
O157感染症に対して
予防効果のあるビフィズス菌が
研究によって見つかったのです。
そのビフィズス菌は、
腸内で食物繊維の発酵代謝の結果として、
たくさんの酢酸を作ることが
メタボローム解析により
分かりました。
この酢酸が
腸管上皮細胞のバリア機能を高めることで、
O157感染症を予防できることも
マウス実験で突き止めました。
また2013年に、
腸内フローラを構成する
主要な微生物グループのひとつ、
クロストリジウム目細菌群が、
食物繊維の発酵代謝により
たくさんの酪酸(非常に臭い)を作ることも
メタボローム解析で明らかにしました。
この酪酸には
大腸炎を抑制する免疫細胞の分化を
誘導する働きもあることが分かり、
こちらもネイチャー誌で発表されました。
私たちの体の中では、
この37兆個の細胞
(現在ではヒトの体の細胞は
60兆個ではなく、37兆個とされています。)と、
100兆個の腸内細菌が
密接に相互作用してバランスを保ち、
その生命活動を維持しています。
ですから、
腸内フローラとうまく共存し、
腸内細菌と共生できる人は、
健康で平和な暮らしを手に入れられると
言えます。
腸内フローラのバランスは、
自身でマネジメントして、
腸内デザインをすることによって、
心身の健康を維持できるような時代が、
すでに訪れているのです。
大切なことはいつだってシンプル。
どうぞ今をたいせつに。
(代表的な参考資料:消化管(おなか)は泣いています、リンパの科学、ミトコンドリアミステリー、現代免疫物語「免疫が挑むがんと難病」、腸のふしぎ、考える血管、おなかの調子がよくなる本、腸内細菌と共に生きる、たんぱく質入門、脳が蘇る断食力、脳と心のしくみ、思考のちから、他)